Les rencontres de Mayuko!(まゆこがいく!)
堤信子
2回目のゲストは、フリーアナウンサーの堤信子さん。朝の情報番組の明るいキャラクターでお馴染みですが、実は、文具のプロデュースもしてしまうほど無類の文具・雑貨好き、という興味深い一面が。さらに長年にわたって年に2、3回通いつめてもまだ飽きない、という筋金入りのパリ好き。
以前から、堤さんの大好きな文具と雑貨をめぐる旅のエッセイ本『旅鞄(トランク)いっぱいの◯◯』シリーズに親しみつつ、ぜひその文具・雑貨、そしてパリへの深い思いやマニアぶりについて聞いてみたかった私は、ご本人が「文具部屋」と呼ぶこだわりのオフィスを訪ねました。
堤さんがはじめにパリを意識したきっかけは?
大学時代、イギリスで1カ月半の語学留学を終えて、せっかくだから他のヨーロッパも見て帰ろう、ということで友人と待ち合わせて、オランダとフランスに行くことにしたんです。まずはオランダまで船で渡って2-3日観光した後、深夜バスでパリに向かいました。何の期待も予備知識もないまま、明け方にバスがパリの街に入って目にした光景、パリの街並みとエッフェル塔がそれはもう感動的に美しかったんです。もちろんロンドンもアムステルダムも素敵でしたが、それとはまったく違う、特別な感覚を味わいました。そこから私にとってはパリが憧れの街になりました。
「憧れてパリに行く」という話はよく聞きますが、「行ってから憧れる」というのも珍しいですね。
おっしゃる通りで私は学生の頃、イギリスが好きで、ロンドンかぶれだったんです。青学の経済学部でしたが、卒論もイギリスの老舗デパートのハロッズをテーマにしたほど、イギリス好きでした。それが一度パリに出会って、卒業してアナウンサーの仕事をするようになってからも、パリに行けば行くほどイギリスはどこかに飛んでいってしまって、ますますパリが大好きになっていきました。
でもいまだにフランス語は話せないんです。何度もやりかけては途中で挫折して、そうこうしているうちに、パリでも何とか英語が通じることがわかって、簡単な単語以外は全部英語でコミュニケーションしています。でもいつかフランス語でお買い物をしたいな、という気持ちはこの歳になってもあるんですね。
それならChocolat!がピッタリです!
なるほど、Chocolat!でお勉強ですね。ふふふ。フランス語は言葉の響きも素敵ですし、でもなぜあんなに難しいんでしょうね。もうずっと憧れはあります。

長くパリに通うなかで、「もういいや」とか「今はちょっと足が向かないな」とかいうことはありませんでしたか?
その質問はよくうちの家族からもされます。主人と海外旅行に行く時、私がパリとミラノ、パリとローマ、など必ずパリを組み入れるので、「よく飽きないね」と。「パリではそんなに親切にしてもらえるの?」と聞かれます。もちろんそんなことはなく、フランス人は結構クールだし、これまでホテルなどのトラブルで嫌な思いをした経験もありますが、でもなんでしょう…。パリの街並みと空気とフランス語の音の響きと、私の大好きな文具と雑貨、もうそれがあるだけで他の嫌なことは全部忘れてしまうくらい、パリは素敵な街だと思っています。これはヨーロッパ全体に言えることですが、古いものを大切にするという文化がちょっと日本にはないところがあって、そこがすごく好きですね。
ご著書『旅鞄(トランク)いっぱいの◯◯ -文房具・雑貨のトラベラーズノート-」シリーズでは、パリだけではなく、京都や奈良も紹介していらっしゃいますが、何か共通点もありますか?
やはり宮廷文化が根づいているところでしょうか。特に文具や雑貨を意識しながら街を巡りますと、文具というのはヨーロッパでは王宮・王侯文化だったり、京都でいうと貴族・宮廷文化に育まれてきたことに気づかされるので、文具・雑貨から見た共通点はあると思います。ヨーロッパは、やはり街並みの美しさ、特に古いものを大切にして、その古いものを保存するためにしっかりとお金と時間をかけている、そこに驚くほどのプライドを持っている、というところが羨ましくもあり、憧れでもあるところですね。
またご本の中で、マニアックとも言えるようなお店もたくさん紹介されていて、特にカフェでは、「このテーブルがいい」「窓際のここの席がオススメ」と全部教えてくださっているので、次に堤さんが行った時に座れないんじゃないかと心配にもなりました。
そうなんですよ。パッと入ったお店で、「あそこに座りたい!」と思っても、人が座っていた場合は一旦帰ります。そして次の日、空いてそうな時間を狙ってもう一度行って、必ずその席に座るんです。お店に入った瞬間にビビッとくる席があるんですね。それは写真に撮っても絵になるし、机の高さとか、座った時の落ち着く感覚とか、手紙にペンを走らせて、ふっと顔をあげた時に目に映る光景まで、自分の好みを大切に選んでいます。

実はもう一つカフェの楽しみがあります。いま吉武さんにお出ししているこのコーヒーカップは、Le Depart Saint-Michel(ル・デパール・サン・ミッシェル)という、地下鉄のサン・ミシェル駅を出てすぐのところにある大きなカフェのものなんです。カフェはオリジナルのカップを使っているところが多く、お店のマークがそのままカップにプリントされていてかわいいんですね。「これ欲しい!」と思ったらギャルソンに交渉します。
Café de flore(カフェ・ド・フロール)のような有名店では、もともとお土産用にカップを販売しているところもありますが、そうじゃないところでは、まずはお店でたくさん飲食をしてたくさんお金を払う。そしてギャルソンに、「私はあなたの勤めているこのカフェが大好きで、このカップをとても気に入って、ぜひぜひ日本に連れて帰りたい。だから特別に売ってくれませんか」と、これまたものすごく多めのチップを渡すんですね。例えば、カップの値段が10ユーロくらいかな、と思ったら、20-30ユーロを渡してお願いします。
すると、私の熱意が伝わって、「それなら特別にちょっと店長に聞いてくる」というギャルソンを待っていると、店長がニコニコしながら「いいよ、売ってあげるよ」とカップを新聞紙かなにかに包んで持ってきてくれます。そうやって私、密かに気に入ったカフェのカップを集めているんです。個人的にそこのファンだと伝えて、たくさん飲食をして、カップの値段よりちょっと高いだろうなと思うチップを渡すと、だいたい感じよくカップを譲ってくれるところが多いです。

それはきっとお店の方も嬉しいですよね。
はい、喜んでくれますね。一つひとつ交渉することで、またギャルソンとの会話も増えるし、私にとってカフェでの楽しい過ごし方なんです。
あと自分宛てにエアメールを書く、というのもオススメです。素敵なハガキを見つけたら、1枚は友だち宛て、もう1枚はそのハガキをとっておきたいので、自分宛てに出します。そうすると1週間後くらいに自宅に届くんです。1週間後というのはちょうど日本に帰って慌ただしい日常生活に戻っている頃なので、そのタイミングでエアメールが届くともう一度パリを思い出すことができて、「あぁぁ、あのカフェで書いたなぁ」って余韻を楽しめるんです。
堤さんならではのいろんなパリの楽しみ方がありますね。もともとの文具好き紙好きも、パリに行ってますます広がったようですね。
そうですね。こんなにメールの時代になった今でも、パリには、自分のオリジナルの名前や紋章を入れた文具をオーダーできる高級文具店が何軒かあるんです。例えば今もエルメスやシャネル、ディオールといった高級メゾンが顧客に招待状を出す時は、そういう文具店にオーダーするそうです。
選んだ紙にきちんと印刷して送ったり、こだわりのレターセットに万年筆で手書きをしたり、という文化がちゃんと続いている。そこに紙に対する尊敬の念のようなものを感じます。日本にも素敵な和紙文化がありますけれど、ヨーロッパではヨーロッパならではの万年筆やレターセットなどの文具を探すのが好きですね。

ヨーロッパの文化の中でも、特にパリに惹かれるのはなぜでしょう?
ちょっと背伸びをして街を歩きたくなる雰囲気じゃないかなと思うんですね。もちろんパリジェンヌもパリジャンもすごく贅沢な暮らしをしているかと言ったらそんなことなく、非常に質素な暮らしをしている人も多いと思います。
以前、TV番組でパリの人たちの普段の暮らしを取材したことがあって、お金持ちのお家だったり、普通のお家だったり、若い夫婦のお家だったり、いろんなお宅を訪ねて暮らしぶりを見せていただいた時に、自分のスタイルをもってる方が多かったんです。ライフスタイルもインテリアも食べ物も、好き嫌いがとてもはっきりしていて、ちゃんと好きなもので自分の生活を固めていることに気づきました。「あぁ、こういうこだわりって素敵だな」って思って。それで私もなるべく好きなものに囲まれて生活しようと、私の仕事部屋はこうなってしまったんですね。

本当に堤さんのお気に入りのものが厳選された、こだわりを感じるお部屋です。
これはパリの人たちの影響ですね。インテリアだけじゃなく、紙も同じでした。切手市というのがあって、オードリー・ヘップバーンの映画にも出てきますが、シャンゼリゼ通りからちょっと入ったところで、週に2回ずつ古い切手や絵葉書を売っているんですね。私は初め、なんとなくかわいいものや素敵なもの、ビビッとくるものを買おうと思って見ていると、お店の方に「あなたはなんのカテゴリーを探しているの?」と聞かれたんです。とっさの思いつきで「エッフェル塔とクリスマス」と答えると、一緒にエッフェル塔がモチーフの絵葉書やクリスマス絡みの切手を探してくれたんです。
切手一つでもそうですから、ありとあらゆるもの、特にお店に行くと必ず「あなたは何が好き?」「何を探しているの?」と聞かれます。もうすっかり慣れたので、「なんとなくビビッとくるもの」はやめて、フランスに行く時は、聞かれたらこう答えよう、というのだけは心に決めて行くようになりました。
せっかくフランスに行くなら、パリ以外のフランスの地方を訪ねるよりは、やはりパリの街を歩いていたい、という感じですか?
もうね、パリで発見が多すぎて、いまだにパリを掘り下げたい、という気持ちが変わらないんです。

行けば行くほど
行けば行くほどです。そして一度行ったところも何度も確かめたくなるんですね。例えば、大好きなエッフェル塔もこっちの角度か見るといい、とか、この時間帯がいいよね、とか。今はセーヌ川の遊覧船からエッフェル塔を眺めるには夕方、日の暮れる時間帯が綺麗だと思っていますが、今度は朝に乗って見てみたいな、と尽きませんね。
改めて、堤さんにとってパリとはどういう存在ですか?
届きそうで自分のものにならない永遠の憧れの地ですね。攻略できない感じがするんです。もういつ飽きるんだろうと思うけれど、どんどんどんどん惹かれて行って、どんどんどんどん新しい発見がある、もう世界中で一番魅力的な街じゃないかなと思います。
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Tsustumi Nobuko(フリーアナウンサー/エッセイスト)
福岡県生まれ。福岡県立修猷館高校から青山学院大学経済学部を卒業後、FBSにアナウンサーとして入社、その後フリーに。NTV「ズームインスーパー」やTBS「はなまるマーケット」といった朝の情報番組でレギュラーを長年務めるなど、TV、ラジオ、講演、司会等で幅広く活躍中。大学では、スピーチ、ジャーナリズム各論の講師として教鞭をとる。近著では、幼い頃から好きだった文具・雑貨を巡る旅を綴った旅鞄(トランク)シリーズ『旅鞄いっぱいの京都ふたたび』(実業之日本社)、『旅鞄いっぱいのパリふたたび』(実業之日本社)などが好評。パリ好き・京都好きが集まる「旅鞄いっぱいのパリサロン・京都サロン」を主宰。連載blog「今日の愛おしいもの~文具と雑貨」や公式Instagramなど、webでも日々こだわりの情報を発信中。

