優れた技量と豊かな創造性を兼ね備えた版画家
17世紀初頭、ロレーヌ地方で育ったジャック・カロ(1592-1635)は、若い頃に滞在したイタリアで、メディチ家の宮廷附き版画家に抜擢され、1621年の帰郷後も、ロレーヌの宮廷や貴族たち、聖職者たちのためのみならず、周辺諸国の貴顕たちの注文にも応えて制作を行うなど、華やかなキャリアを築きました。
わずか40数年の生涯に残した作品の数は1400点以上にのぼります。当時の喧騒が今にも聞こえてきそうな祝祭や市の様子、民衆喜劇(コメディア・デラルテ)の役者たちや道化たちを描いたもの、対抗宗教改革の潮流を映した作品群、社会を暗い影で包んだ戦争に取材したもの、イタリアや1630年頃に滞在したパリ、故郷ロレーヌの風景・・・、多彩な主題を扱った画面の中では、現実に向けられた鋭いまなざしと、想像力に富んだ着想が交錯する、独特の世界が作り上げられています。また、カロは試行錯誤を重ね、腐食銅版画(エッチング)の技法に新境地を開いたことでも知られます。この新しい技法から生み出された、ときに明暗を鮮やかに対比し、ときに柔らかな空間の広がりを詩情豊かに描き出す線の表現の美しさは、見るほどに深い驚きをもたらします。
本展覧会では、国立西洋美術館のコレクションに基づいて、初期から晩年に至るカロの作品を、年代と主題というふたつの切り口からご紹介します。カロの活動の軌跡をたどりつつ、リアリズムと奇想が共演するその版画世界をご覧いただきます。さらに、作品を通して、当時の芸術的潮流や社会の諸相に対するカロの姿勢を探っていくことも、この展覧会の狙いです。
Chocolat!第382回で本展の紹介をしています。